インスリンの早期導入
-その意義と実際-

監修医師:すずき糖尿病内科クリニック
院長 鈴木 大輔先生

インスリン治療の早期導入は膵臓のインスリン分泌能を回復させ、インスリンを離脱した後も安定した血糖コントロールを可能にする優れた治療法です。しかし、医師がその意義を十分に理解しているとはいいがたく、また2型糖尿病患者さんの多くはインスリン治療に対して抵抗感を持っています。インスリン早期導入の意義を医師、患者さんの両方が理解し、患者さんの抵抗感を取り払うことがインスリン早期導入の鍵を握っています。

インスリン早期導入の意義

先生方の一般的な2 型糖尿病治療の流れは、食事療法および運動療法でHbA1c 値や血糖値が目標値に達しない場合、まず経口血糖降下薬を単独投与し、改善が見られなければ薬剤の増量、併用を行い、それでも目標値に達しないときに最終的にインスリンの導入に踏み切るというこものではないかと思います。

しかし私は糖尿病に対する薬物治療において、経口血糖降下薬とインスリンを同じスタンスで考えています。患者さんが糖尿病と診断された段階の選択肢にインスリン治療も加えるべき、という考え方です。その理由はインスリンの早期導入によって膵β細胞機能の回復が期待でき、これによって、その後の治療方針を再考することができるからです。

薬物治療歴がなく強化インスリン治療が導入された2型糖尿病の患者さん21名(年齢50.9±17.8歳、導入時のHbA1c11.7±2.3%[JDS])を対象とした私たちの検討では、1年以内に57%がインスリン治療を離脱でき、離脱時のHbA1cは5.4±0.5%(JDS)と非常に良好なコントロールが得られていました1)。また、新規に2型糖尿病と診断された患者さん382名を持続皮下インスリン注入療法(CSII)、強化インスリン治療、経口薬の3群にわけ、血糖値の正常化が2週間持続した段階で薬物療法を中止し、療養指導のみで寛解期間がどの程度続くかをみた報告では、CSII群と強化インスリン治療群で約5割が寛解となり(図1)、膵β細胞機能の改善は3群ともにみられたものの、1年後にも改善がみられたのはインスリン治療の2群だけであったとされています(図2)2)。さらに、4週間という短期の強化インスリン治療によっても膵β細胞機能が回復するという報告もあります3)。

図1:寛解持続期間 図1:寛解持続期間

図2:β細胞機能 急性インスリン反応 図2:β細胞機能 急性インスリン反応

このように、インスリンの早期導入によって膵β細胞機能を回復してインスリンから離脱することができれば、その後の治療の選択肢が広がり、より長期にわたって良好に血糖をコントロールできる可能性が高まると考えています。

インスリン早期導入に対する患者さんの抵抗感の払しょく

早期導入を阻む大きな要因は、患者さんの「インスリン治療は病態がかなり進行したときに行う最終手段で、始めたら一生打ち続けなければならない」という誤解です。医師自身が同じ誤解をもっていることも少なくありません。

こうした誤解に対 応するために、私はインスリン早期導入にあたって、「短期間試してみる」ことを勧めています。「まず●ヵ月(●週間)だけ続けてみましょう。どうしてもいやだったら途中で止めましょう」と伝えると、「いつでも中止できるなら」と受け入れてくださる患者さんが少なくありません

インスリン治療の期間は、膵β細胞機能の回復が得られる期間を考慮し4週間は行ったほうがよいと思います。生活習慣の改善が適切にできていない患者さんでは、体重への影響を軽微にするために2週間としてもよいでしょう。また患者さんが望むのであれば、血糖値が正常化するまでとすることもできます。私自身は多くの患者さんに6ヵ月を勧めています。

また、罹病期間が短い患者さんでは病態が進行した患者さんよりもさらに注射への抵抗感が強いことが多いので、診察時にインスリン注射の実物を見せて、実際に患者さんに注射してもらったり、私が自分の腹部に少量を注射したりしながら、注射は簡単だし、痛みも少ないことを実感してもらうことも大切です。

強力な効果のBasal-Bolus、受け入れやすいBOT

インスリン早期導入に用いるレジメンの基本は持効型溶解インスリン製剤を1 日1 回と、超速効型インスリン製剤を1 日3 回毎食直前に注射するBasal-Bolus 療法です。早期導入して離脱できる可能性が最も高いレジメンと言えます。

しかし、1 日に4 回注射を打つことに抵抗が強い患者さんや、営業職や勤務時間がシフトする人などで食事時間が不規則になる患者さんには、食後高血糖の抑制効果のある経口血糖降下薬(DPP-4阻害薬など)に、持効型溶解インスリン製剤を1 日1 回注射するBOT(Basal Supported OralTherapy)を勧めています。

また、持効型溶解インスリンを使う方法以外に、混合製剤を使う導入法もあります。超速効型と混合型の配合比率が25:75 、30:70 、50:50の製剤がありますが、導入に用いる製剤としては、健康な人のインスリンの基礎分泌と追加分泌の割合にあった50:50の混合製剤が使いやすいといえるでしょう。

インスリンの早期導入をしやすくするために

欧米の糖尿病のテキストには、糖尿病になった時からインスリン治療が行われることを説明すべきであることが明記されています。 わが国の糖尿病治療では、医師もインスリン導入は治療の最終手段であるかのような説明を患者さんにしがちですが、診断の早期から患者さんにインスリン治療について説明をしておくことで、患者さんの誤解や偏見を払しょくし、インスリンの早期導入の下地がつくられ、膵β細胞機能を回復・温存した糖尿病治療が可能になると考えます。

1)矢部大介、鈴木大輔ほか:Diabetes Strategy 2012;3:114-126
2)Weng J et al.: Lancet 2008;371:1753-1760
3)Hojberg PV et al. : Dzlabetologia 2009:52:199-207

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