薬による治療

インスリン

インスリン

特徴

インスリンは血糖を下げる働きのあるホルモンです。インスリンの作用が不足した状態になっているときに、インスリン注射で外部からインスリンを補うことによって血糖を下げます。

薬剤の種類

インスリン注射薬の種類と作用時間

作用時間の長さによって、超速効型、速効型、中間型、混合型、配合溶解、持効型溶解に分類されます。超速効型、速効型、中間型、持効型溶解の順で効果が現れるまでの時間が遅く、効果の続く時間が長くなります。
超速効型と速効型は食後のインスリンの追加分泌を補う目的で使われ、中間型と持効型溶解はインスリンの基礎分泌を補う目的で使われます
(→ インスリン療法の実際)。混合型は超速効型または速効型と中間型、配合溶解は超速効型と持効型溶解をまぜて、追加分泌、基礎分泌の両方を補えるようにしたものです。

参考資料

  • 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2016-2017, 文光堂, 2016
  • 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第6版, 診断と治療社, 2014

血糖を下げる仕組み

インスリンは、すい臓のベータ細胞で作られるホルモンです。糖分を含む食べ物は消化酵素などでブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収されます。食事によって血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖は筋肉などへ送り込まれ、エネルギーとして利用されます。
このようにインスリンには、血糖値を調整する働きがあります。
インスリン注射は、このインスリンを外部から補う治療法です。

インスリン治療が必要になるとき

糖毒性の悪循環 食べ過ぎや運動不足 高血糖 インスリン抵抗性の発見 インスリン分泌量低下 インスリンの作用不足 さらなる高血糖の誘発

1型糖尿病ではすい臓からインスリンがほとんど分泌されなくなるため、インスリン注射が必要です。
2型糖尿病では、筋肉や肝臓でインスリンが働きにくくなったり、インスリンの分泌が少なくなったときに、インスリンを注射によって補い、体内でのインスリンの働きを回復させます。
また、血糖が高い状態が続いたときに、すい臓が障害されてインスリン分泌が悪くなる「糖毒性」という悪循環が生じているときにもインスリン注射を使います。こうすることで、すい臓の働きが回復して、インスリンを使わなくても血糖コントロールできるようになることもあります。

インスリン療法の実際

すい臓からのインスリン分泌には、1日中ほぼ一定量が分泌される「基礎分泌」と食事などの血糖値の上昇に応じて分泌される「追加分泌」があります。
1型糖尿病では「基礎分泌」と「追加分泌」がともに障害されています。2型糖尿病では主に「追加分泌」が障害されており、さらに進行すると「基礎分泌」も障害される場合があります。
インスリン療法では「基礎分泌」と「追加分泌」からなる健康な人のインスリン分泌パターンを再現することを理想としており、そのため適切なタイミングで、適切な種類と量のインスリンを注射する必要があります。患者さん一人ひとりの血糖とインスリン分泌の状態にあわせて、1種類あるいは2種類のインスリンを1日1~4回注射し、血糖コントロールのよい状態をつくっていきます。

健康な人と糖尿病患者さんのインスリン分泌パターン

インスリン療法による分泌パターンの再現

早期インスリン療法

インスリン療法は、健康な人と同じ理想的なインスリン分泌パターンを再現できる方法です。最近では糖毒性をとり除くために、早期からインスリン注射薬を使ったり、また、比較的軽症の糖尿病にもインスリン注射薬を用いる場合があります。
このように、インスリン療法は糖尿病治療の最終手段ではありません。
2型糖尿病の場合、一度インスリン療法を始めてしまうと一生続ける必要があるというのは誤解です。
主治医にインスリン療法を勧められたら積極的に受け入れるようにしましょう。

注射の仕方

現在のインスリン療法では、ペン型の注入器を用いるのが主流で、注射針は細く短く、痛みも少なくなっています。
注射する部位は、
①腹部(おなか) ②上腕部の外側 ③臀部(おしり) ④大腿部(ふともも)の外側などが適しています。主治医から指示された場所に注射するようにしましょう。
いつも同じ場所に注射すると、皮膚がへこんだり、逆にふくれることがありますので、前回注射した場所より2~3cmくらいずらして注射するようにしましょう。

注射部位

注意が必要なこと

【低血糖】
インスリン注射を行っているときは、低血糖に対して、とくに注意が必要ですが、低血糖が起きても適切に対処すれば回復します。低血糖を恐れて、自分の判断でインスリン注射の量を減らしたり、中止したりしないようにしましょう。

インスリン療法Q&A

Q1.インスリン療法を始めると一生やめられない?
インスリン療法を始めたために、「自分のすい臓からインスリンが出なくなってしまう」ということはありません。インスリン注射を的確に行い、高血糖を是正し、すい臓に休息を与えることで、インスリンの分泌機能が回復し、再び飲み薬での血糖コントロールが可能になる場合もあります。

インスリン療法を始めると一生やめられない?

Q2.インスリンの注射は痛い?
インスリン注射薬で用いる針は、採血などに使う針よりはるかに細く、ほとんど痛みを感じないものが使われています。

Q3.インスリン療法を始めたので、食事療法や運動療法をやめてもいいですか?
食事療法や運動療法は継続して行う必要があります。食事療法をおろそかにすると肥満が助長され、その結果生じる糖毒性のため、インスリンの注射量がだんだん増えていく悪循環が起こります。
インスリン療法は食事療法を守って初めて効果があらわれます。また運動療法も今までと同じように行いましょう。ただし、インスリン療法を始めて血糖コントロールがよくなってくると低血糖が起きる可能性がありますので、低血糖には十分に注意する必要があります。
あらかじめ主治医に運動療法について相談しておくとよいでしょう。

Q4.病気になった時にインスリンの注射をしてもいいの?
病気の時は、軽いかぜでも血糖値が上がりやすくなっています。そのため2型糖尿病患者さんは、食事が全くとれない場合以外では、インスリンの注射が必要です。自己判断でインスリンの注射を中止してはいけません。場合によってはインスリンの増量や減量が必要ですので、あらかじめ主治医と病気の時の対応について相談しておくとよいでしょう。1型糖尿病患者さんは、食事がとれなくても、インスリンの注射を中止してはいけません。

インスリンの歴史

バンティングとベスト及び実験犬

バンティングとベスト及び実験犬

インスリンは1921年にバンティングとベストによって発見されました。すい臓を全摘した犬、マージョリーに、すい臓からの抽出物を注射すると血糖値が2時間で50%下がることが確認されました。 マージョリーはその後90日間、生存しました。

アイレチン

アイレチン

イーライリリー社はインスリン発見の翌年の1922年5月にインスリンの製剤化に成功しました。その後1923年に世界で初めてのインスリン製剤を発売しています。写真が当時の製剤で商品名はアイレチンです。

患者 J.L.

患者 J.L.

当時、アイレチンで治療を受けていた1型糖尿病患者(インスリン依存型)のインスリン治療前とインスリン治療後。右の写真がインスリン治療開始日のものですが、糖代謝異常のためやせ細っています。当時の糖尿病は必ず死に至る病気と恐れられていました。左側がインスリン治療開始から2ヵ月後の写真です。当時インスリンはミラクル(奇蹟の薬)といわれる程重要な薬でした。

家畜のすい臓の山とインスリン原末のボトル

家畜のすい臓の山とインスリン原末のボトル

当時のアイレチンを製造するために集められた家畜のすい臓の山です。手前のボトル1本のインスリンの抽出のために大量のすい臓を必要としました。

当時のリリーのアイレチンの広告

当時のリリーのアイレチンの広告

インスリン広告

日本で初めて糖尿病治療の本の中に掲載されたインスリン広告。当時はシオノギ商店(現在のシオノギ製薬)が発売をしていました。広告中に100単位8円(現在の金額に換算すると約8万円)という記載があり、当時は大変高価な薬でした。

アイレチン発売当時の注射器

アイレチン発売当時の注射器

Dr.バンティングに送られたクリスマスカード

「糖尿病学の父」といわれたジョスリンから、リリー社とDr.バンティングに送られたクリスマスカード