インスリン治療のポイント<br>インスリン治療は、適切なタイミングでの開始が、その後の合併症予防のために重要となります。
ですが、インスリン導入は遅れがちになる傾向があります。
インスリン治療に対する患者さんの5つの心理


患者さんがインスリン治療に抱くイメージ
患者さんがインスリン治療に抱くイメージは、主に5つに大別されます。
具体的には、「注射に対する負のイメージ」、「インスリンに対する正のイメージ」、「社会的・対人的影響」、「自己管理に対する後悔」、「インスリンに対する負のイメージ」、です。



つまり、患者さんはインスリン治療そのものだけでなく、注射や糖尿病の自己管理に対する後悔など、インスリン治療を取り囲む要素にも影響を受けて抵抗している可能性があると考えられます。


POINT 患者さんは、インスリン治療を取り囲む要素にも影響を受けている
患者さんがインスリン治療を開始するまでのプロセス

患者さんの療養行動の状態と変化への意図(動機づけのレベル)によって分類した、変化ステージモデルという考え方があります。このモデルに照らし合わせると、インスリン治療に抵抗を示す患者さんは、前熟考期・熟考期・準備期のいずれかのステージにいると考えられます。このステージが進んで行動期・維持期に到達すれば、療養行動の開始・継続となります。


変化のステージ


変化ステージは、療養行動に対する肯定的な考えが否定的な考えを上回ることで進んでいきます。インスリン治療であれば、「注射はいやだ」「費用がかかる」という患者さんの否定的な考えよりも、「合併症を予防できる」「血糖値が下がる」という肯定的な考えが大きくなれば、インスリン治療の開始に向けて前進できることになります。


肯定的な考え、否定的な考え
POINT インスリン治療から得られる肯定的な考えが大きくなれば、インスリン治療の開始に向けて前進できる
患者さんに対する効果的なアプローチ法

ここまでで、患者さんはインスリン治療そのものだけではなく、付随する要素に抵抗を示している可能性があること、その抵抗感よりもインスリン治療から得られるメリットが大きくなれば、インスリン治療を開始できるかもしれない、ということがおわかりいただけたかと思います。
このような患者さんの行動変容を促し、インスリン治療を開始していただくためには、医学的な知識を詰め込む疾患教育や説得、合併症の脅威のみを強調することは効果的ではありません。

患者さん一人ひとりのこころを理解しながら、患者さんの抵抗や不安をピンポイントに解決していくコミュニケーションが効果的だと考えられます。

患者さん一人ひとりの不安を解決するためのツールがあります


患者さんがスムーズにインスリン治療を開始するためには、その患者さんがインスリン治療にどのようなイメージを持っているかを知り、それを一つ一つ解決していくことが大切です。

この2つを簡単に行うことのできるツールとして、コミュニケーションサポートプログラム「前向き!」というものがあります。「前向き!」は、患者さんの不安を知るためのチェックシート、それを解決するための説明用カードや配布用ストーリーブックで構成されています。


資材サンプル
「前向き!」をぜひご活用ください。
「前向き!」の活用法」<br>今回は、コミュニケーションサポートプログラム「前向き!」の活用法を、例とともにご紹介します。
前向き!活用例(2)
インスリン導入を拒否しているケース


このような患者さんは、先生方の受け持ちの中にもおられるのではないでしょうか。このようにインスリン導入に強い抵抗感を示している人に嫌がる理由を聞いても、なかなか本音は引き出しにくいものです。


そこで、「前向き!」のチェックシートを記入していただきましょう
チェックシート活用例


このチェック結果を受けて、「あなたもこれで前向き!カード」のブルーのカード、「読めば前向き!ストーリーブック」のブルーの冊子を使って、患者さんにインスリン治療についての説明をします。
カードおよびストーリーブックには、チェックシートの設問に対応したメッセージが書かれています。


前向きチェックシートの確認
次の診察日、患者さんの反応はというと・・・
「前向き!」をぜひご活用ください。
「前向き!」の活用法<br>今回も、前回に」引き続きコミュニケーションサポートプログラム「前向き!」の活用法をご紹介します。
前向き!活用例(2)
医師がインスリン導入を検討している


「前向き!」のチェックシートは、これからインスリン導入についてのお話をしようかな、と考えている患者さんに対しても有用です。
最初の回でお話したように、患者さんによって変化ステージモデルのどの段階にあるかは異なりますから、まずその患者さんがインスリン治療をどの程度受け入れる準備があるのかを知ることが大切です。


変化のステージ

そこで、「前向き!」のチェックシートを記入していただきましょう。

そこで、「前向き!」のチェックシートを記入していただきましょう。


このチェック結果を受けて、前回と同じように、オレンジのカードおよびストーリーブックで、患者さんにインスリン治療の説明をします。


ストーリーブックの確認

次の診察日、患者さんの反応はというと・・・

次の診察日、患者さんの反応はというと・・・
「前向き!」をぜひご活用ください。

インスリン治療に対する意識調査

監修 奈良県立医科大学 糖尿病学講座 教授 石井 均先生

前向きなインスリン治療開始のポイントはインスリン治療に対する患者さんの正しい理解です。
インスリン治療中の患者さんへの質問



患者さんの心に働きかけ、適切な時期のインスリン開始を目指すために

監修 奈良県立医科大学 糖尿病学講座 教授 石井 均先生

今回の調査では、医師が考えるほどにインスリン治療に対する患者さんの理解は得られていません。しかしその一方で、患者さんがインスリン治療を始める 理由の上位からは、インスリン治療の正しい理解が治療開始のきっかけになっていると考えられます。

またインスリン導入を受け入れた患者さんは医師への相談意向が高いとの結果も得られており(図1)、受け入れ前と比べて糖尿病治療に前向きに取り組むようになっていることがうかがえます。これは、変化ステージモデル(図2)の ステージが進んだことを示しています。

しかし実際の臨床現場では、多くの医師が、「患者さんが インスリン治療の必要性を理解してくれない」「説明する 時間が取れない」ことに困っているようです(図3)。

このような状況を解決し、適切な時期でのインスリン治療 開始を実現するために、患者さんの不安や誤解を見つけて、コミュニケーションすることが大切です。



※2 調査概要

医師への質問

医師への質問

インスリン未治療の患者さんへの質問

インスリン未治療の患者さんへの質問

図1 : インスリン未治療/治療中の患者さんへの質問

図1 : インスリン未治療/治療中の患者さんへの質問

図2:変化ステージモデル

図2 : 変化ステージモデル

図3:医師への質問

図3 : 医師への質問